第9話 ノアの事(3)
新宿西口交番前の地下から丸の内線乗り場方面に抜け、地上に上がると外は地下とはまた違う熱気に包まれていた。
人の流れに合わせながら新宿西口の大ガード手前の雑居ビルに入る。
「ここあんまり知られて無いんだけど、結構穴場なんだよね」
そんな事呟きながら彩夏がエレベーターのボタンを押す。
ここに着く前から彩夏からは「元気だった?」とか「仕事どう?」とか
久しぶりに会った友達同士がするありきたりの会話を振られていたのだが、僕はどうにも上手い返事が出来ないでいた。
僕の気持ちは僕に寄り添うように居るノアに向いてしまっていた。
今日は久々に彩夏と会って、2年ぶりの身内同窓会の相談をするっていう段取りだった。
だからノアには家に帰ってからゆっくり今日起こったことを話そうと思っていたのだ。
でも今ノアはここにいる、僕自身が呼び出していないのに。
「恵一…」
ノア自身も困惑している、今はダメだ、話しかけられない、目線でそれをノアに伝える、ノアも理解したようにこっくり頷く。
店は確かにこじんまりしていた、カウンターの上には大皿の料理が並び、それほど広くない店内は比較的年齢層の高いサラリーマンたちの笑い声で溢れていた。
「あ、ご予約いただいてた三田様ですね、お席お取りしてますから」
店員に彩夏が名前を告げると奥の席に通された、入り口付近のカウンター席とは違って、簡単な間仕切りで仕切られた簡易個室のような席だった。
「ここはね、会社の先輩に教えてもらったんだ、この席ならゆっくり話せるしね、あ!ここのオススメは豚の角煮と、レンコンのはさみ揚げ、それとね…」
「座っていきなり料理の話かよ、どんだけ腹減ってるのよ」
「あ、ばれちゃった?実は昼から何にも食べてないんだよね~」
まだ鞄も下ろしてない彩夏はもうメニューを広げている、時間に遅れてくるくせにせっかちなのは本当に変わってない、それでも彩夏が僕たちのペースメーカーであって、彩夏が居なかったら僕たち『エンカウント』のサークル仲間たちは夏の沖縄旅行も、修善寺温泉めぐりも、果ては『早朝4時の池袋で鬼ごっこ』なんてどうしょうもないイベントもやらなかったはずだ。
「俺はとりあえずビール、食い物は適当に頼んでおいてよ、トイレ行ってくるわ」
メニューに夢中の彩夏に声をかけてトイレに立つ、勿論ノアもついてくる。
トイレのドアを開けて個室のドアをロックする、やっとノアと話せる環境だ。
「どうしちゃったのさノア?」
「うーんと…わかんない、ふっと気づいたらここにいて、私こんな新宿なんて来たことないでしょ?だから凄い戸惑っちゃって、凄い人で…したら恵一がいて」
「そうか、ノアは街に出るの初めてだもんな…でもなんで来ちゃったんだろうな」
「何でだろう…私が恵一に会いたかったからかな…ねえ、あれが彩夏さん?」
僕は心のどこかでノアに来て欲しいって願っていたのだろうか、彩夏に会うことにそんな躊躇いがあったのだろうか?
「うん、そうだよ、あれが彩夏、こないだ話したよね」
「ふーん、綺麗な人だね」
「ええ?そうかぁ?がさつで男っぽいじゃんか」
「美人さんだよ、少なくとも私はそう思うって事、わかる?」
この時はよくわかってなかった、ノアの言い方で気づくべきだったのだろうけど、ノアがそう思うって事は僕も心のどこかで彩夏に対してそういう思いを持っていたって事なんだろう、少なくともこの段階では、僕とノアは同機していた、そう思う。
「でもどうしようか、これから食事して色々話すから…まぁ二時間くらいはかかっちゃうなぁ」
「隣に座っていてもいい?大人しくしてるからさ」
「一緒にいるって事?」
「なんかまずい事でもあるの?」
「ううん、そんなことはないけどさ、解った、そうしよう」
内心妄想とは言え、自分の彼女を隣に置きながら別の女性と酒を飲むっていうのは心中穏やかではないのだが、この場合仕方ないと自分に言い聞かせた、何でノアがここに出てきてしまったのか、それは家に帰ってからまたゆっくり考えればいい。
その時、胸ポケットで携帯が震えた、マナーモードにしておいた携帯電話がバイブレーションする。
確認すると彩夏からだった。
『いつまでトイレに篭ってんだ!ビールの泡消えちまうぞ!』
「ほら、こういうメールを送ってくるような奴なんだよ、彩夏は」
「はは、でも面白いね彩夏さん、早く戻ろうよ、怪しまれるのも嫌でしょ?」
席に戻ると既にビールのジョッキは軽く汗をかいて、泡が消えていた。
「恵一いつまでトイレにいるのよ!何?便秘?」
「違うよ馬鹿、仕事の電話もかかってきてたんだよ」
言いながら席に座る、4人掛けの席に二人とノア、僕の横にノアはちょこんと座った。
To be continued…
人の流れに合わせながら新宿西口の大ガード手前の雑居ビルに入る。
「ここあんまり知られて無いんだけど、結構穴場なんだよね」
そんな事呟きながら彩夏がエレベーターのボタンを押す。
ここに着く前から彩夏からは「元気だった?」とか「仕事どう?」とか
久しぶりに会った友達同士がするありきたりの会話を振られていたのだが、僕はどうにも上手い返事が出来ないでいた。
僕の気持ちは僕に寄り添うように居るノアに向いてしまっていた。
今日は久々に彩夏と会って、2年ぶりの身内同窓会の相談をするっていう段取りだった。
だからノアには家に帰ってからゆっくり今日起こったことを話そうと思っていたのだ。
でも今ノアはここにいる、僕自身が呼び出していないのに。
「恵一…」
ノア自身も困惑している、今はダメだ、話しかけられない、目線でそれをノアに伝える、ノアも理解したようにこっくり頷く。
店は確かにこじんまりしていた、カウンターの上には大皿の料理が並び、それほど広くない店内は比較的年齢層の高いサラリーマンたちの笑い声で溢れていた。
「あ、ご予約いただいてた三田様ですね、お席お取りしてますから」
店員に彩夏が名前を告げると奥の席に通された、入り口付近のカウンター席とは違って、簡単な間仕切りで仕切られた簡易個室のような席だった。
「ここはね、会社の先輩に教えてもらったんだ、この席ならゆっくり話せるしね、あ!ここのオススメは豚の角煮と、レンコンのはさみ揚げ、それとね…」
「座っていきなり料理の話かよ、どんだけ腹減ってるのよ」
「あ、ばれちゃった?実は昼から何にも食べてないんだよね~」
まだ鞄も下ろしてない彩夏はもうメニューを広げている、時間に遅れてくるくせにせっかちなのは本当に変わってない、それでも彩夏が僕たちのペースメーカーであって、彩夏が居なかったら僕たち『エンカウント』のサークル仲間たちは夏の沖縄旅行も、修善寺温泉めぐりも、果ては『早朝4時の池袋で鬼ごっこ』なんてどうしょうもないイベントもやらなかったはずだ。
「俺はとりあえずビール、食い物は適当に頼んでおいてよ、トイレ行ってくるわ」
メニューに夢中の彩夏に声をかけてトイレに立つ、勿論ノアもついてくる。
トイレのドアを開けて個室のドアをロックする、やっとノアと話せる環境だ。
「どうしちゃったのさノア?」
「うーんと…わかんない、ふっと気づいたらここにいて、私こんな新宿なんて来たことないでしょ?だから凄い戸惑っちゃって、凄い人で…したら恵一がいて」
「そうか、ノアは街に出るの初めてだもんな…でもなんで来ちゃったんだろうな」
「何でだろう…私が恵一に会いたかったからかな…ねえ、あれが彩夏さん?」
僕は心のどこかでノアに来て欲しいって願っていたのだろうか、彩夏に会うことにそんな躊躇いがあったのだろうか?
「うん、そうだよ、あれが彩夏、こないだ話したよね」
「ふーん、綺麗な人だね」
「ええ?そうかぁ?がさつで男っぽいじゃんか」
「美人さんだよ、少なくとも私はそう思うって事、わかる?」
この時はよくわかってなかった、ノアの言い方で気づくべきだったのだろうけど、ノアがそう思うって事は僕も心のどこかで彩夏に対してそういう思いを持っていたって事なんだろう、少なくともこの段階では、僕とノアは同機していた、そう思う。
「でもどうしようか、これから食事して色々話すから…まぁ二時間くらいはかかっちゃうなぁ」
「隣に座っていてもいい?大人しくしてるからさ」
「一緒にいるって事?」
「なんかまずい事でもあるの?」
「ううん、そんなことはないけどさ、解った、そうしよう」
内心妄想とは言え、自分の彼女を隣に置きながら別の女性と酒を飲むっていうのは心中穏やかではないのだが、この場合仕方ないと自分に言い聞かせた、何でノアがここに出てきてしまったのか、それは家に帰ってからまたゆっくり考えればいい。
その時、胸ポケットで携帯が震えた、マナーモードにしておいた携帯電話がバイブレーションする。
確認すると彩夏からだった。
『いつまでトイレに篭ってんだ!ビールの泡消えちまうぞ!』
「ほら、こういうメールを送ってくるような奴なんだよ、彩夏は」
「はは、でも面白いね彩夏さん、早く戻ろうよ、怪しまれるのも嫌でしょ?」
席に戻ると既にビールのジョッキは軽く汗をかいて、泡が消えていた。
「恵一いつまでトイレにいるのよ!何?便秘?」
「違うよ馬鹿、仕事の電話もかかってきてたんだよ」
言いながら席に座る、4人掛けの席に二人とノア、僕の横にノアはちょこんと座った。
To be continued…
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