第6話 マイの事(2)
陸の運転する軽の助手席に乗って、陸のお父さんの病院に向かう。
お父さんが病気になったのは陸がまだ大学を卒業する前だったらしい、それまでは元気だったのに急に倒れたそうだ。
脳内出血ってやつで、一命は取り止めたけど半身マヒが残っちゃって、未だに杖無しじゃ歩けない。
リハビリで病院からはもう退院してるんだけど、先月家の階段で足を滑らせて腰の骨にひびが入っちゃって、今はまた入院している。
陸は店の経営をしながらなるべく週一回は病院に顔を出してる、経営は引き継いではいるけど、まだまだ取引先の一部はお父さんの人脈があるのも確かだ。
「なぁ、なんでアタシを連れて行くのさ?いままで一度もそんな事なかったじゃんか」
「うーん、なんつーかな、お前がいたら安心するって感じか?」
「馬鹿いってんじゃねえよ、アタシ何にもしねえしできねえぞ?」
「わかってるよ、いいんだよ、マイが居てくれれば」
なんかすっきりしない気分だ、陸が会話のお茶を濁す事なんてしょっちゅうだけど、意味の無い行動とかをすることって殆ど無い。
車はもう1時間ちょっと走ってる、高速道路に乗ってもう少し行ったインターで降りるらしい。
カーステレオからは陸のお気に入りの曲が流れている、まだそんなに売れていないインディーズバンドのアルバム、陸がお気に入りって事はアタシもお気に入りって事だ。
「ちょっとしたドライブ気分だな、デートだデート」
陸はなんだか嬉しそうにアタシに笑いかける、車はインターを降りて緩やかにカーブしている。
東京都のはじっこあたりにある病院は環境のよさと施設設備の充実でそれなりに有名らしい。
小高い丘のようになっている坂道を上がると広々としたエントランスが見えてきた。
陸のお父さんはこの病院に入るのを最初かなり嫌がったらしい、まず家から1時間半くらいかかる距離だし、何よりこの緑に囲まれた環境が老人ホームを想像させて気分悪くなったらしい。
陸に聞いたら実際老人ホーム的な看護もやってるらしくて、お父さんの気持ちもわからなくは無いかも。
実際アタシが来たのは初めてだけど、広くて空気も綺麗だし気分はいい、でもここにずっと住んでろって言われたらどうなんだろう?
高速降りてからも国道沿いのコンビニとか、でかい飯屋とかが何件かあったくらいで全然遊べそうな所無いし、アタシは多分すぐあきちゃうんだろうなぁ。
受付で面会の手続きをして(もちろんアタシはそんなの必要ない)エレベーターで4階へ。
確かに入院患者も面会の人も年配が多いかもしれない、お父さんはこういう人達と一緒にされたくないのかなぁ。
「よう、どう調子は?」
部屋は4階の奥の個室だった、花屋らしく綺麗な切花が入れられてる、陸が活けたってのが良くわかる、スッとした活けこみ方、ボリュームを出すために入れられた紫陽花が綺麗な青色だ。
「痛みはひいてきてるよ、ただ歩くのはやっぱりしんどい」
陸のお父さんは無愛想だ、顔も陸にはあまり似ていない、陸はどちらかというとエキゾチックな顔立ちだけど、お父さんは日本人顔で背も大きくないし、そのぶんガッチリとしている。
お母さんの血が色濃いんだろうって思う、陸のお母さんは陸にそっくりだ。
「店、どうだ?」
「あぁ、これ収支報告」
陸が鞄から取り出した書類の束を受け取ってお父さんはメガネをかける、一時期はロレツが回らなくて喋るのも大変そうだったけど、今では喋るのに問題はなさそうだ。
「…生花部門、先月より落ち込んでるな」
「そりゃそうだ、5月は母の日、6月は父の日ってイベントあったからな、それに比べると少しは落ちるよ、その分カフェ部門の売り上げが少し上がったからさ」
「陸、うちは花屋なんだよ、それを忘れた商売するなってあんだけ言っただろうが」
お父さんが店をカフェ併設にしたのを気に入ってないのはアタシも知ってる、お父さんは楢崎生花店は楢崎生花店であって欲しかったんだと思う、でも売り上げ自体が下がってて、自分も病気しちゃってどうにもならなかったんじゃないかなぁ?
「それは解ってるよ、今企業のエントランスとかの活けこみも営業かけてるし」
「花屋の二代目としてはお前はまだまだ未熟なんだから、池澤さんによく話し聞いてやるんだぞ、俺が帰るまでは池澤さんのいう事聞けよ」
陸が露骨に嫌な顔をした。
池澤さんは陸がまだ小さい頃からお店で働いてるおっさんだ、物凄く人が良くて愛想がいい。陸も小さい頃から遊んでもらったり色々世話になってるらしいけど、如何せん今のオシャレな店の感覚とマッチしてないのは否めない。
陸が社長になっても、やっぱりお父さんは経営の実権を握ってるのがよくわかる、陸がそれを面白く思ってないのも。
陸がほんの一瞬だけアタシを見た、アタシは部屋の隅っこで二人のやり取りを見てただけなんだけど、チラッと陸は私を見て、それからお父さんに向き直った。
「親父、池澤さんの事なんだけど」
「何だ?」
「俺、実際の経営者として、池澤さんには退職してもらいたいと思ってるんだ」
陸はきつく両手を握ってた。
To be continued…
お父さんが病気になったのは陸がまだ大学を卒業する前だったらしい、それまでは元気だったのに急に倒れたそうだ。
脳内出血ってやつで、一命は取り止めたけど半身マヒが残っちゃって、未だに杖無しじゃ歩けない。
リハビリで病院からはもう退院してるんだけど、先月家の階段で足を滑らせて腰の骨にひびが入っちゃって、今はまた入院している。
陸は店の経営をしながらなるべく週一回は病院に顔を出してる、経営は引き継いではいるけど、まだまだ取引先の一部はお父さんの人脈があるのも確かだ。
「なぁ、なんでアタシを連れて行くのさ?いままで一度もそんな事なかったじゃんか」
「うーん、なんつーかな、お前がいたら安心するって感じか?」
「馬鹿いってんじゃねえよ、アタシ何にもしねえしできねえぞ?」
「わかってるよ、いいんだよ、マイが居てくれれば」
なんかすっきりしない気分だ、陸が会話のお茶を濁す事なんてしょっちゅうだけど、意味の無い行動とかをすることって殆ど無い。
車はもう1時間ちょっと走ってる、高速道路に乗ってもう少し行ったインターで降りるらしい。
カーステレオからは陸のお気に入りの曲が流れている、まだそんなに売れていないインディーズバンドのアルバム、陸がお気に入りって事はアタシもお気に入りって事だ。
「ちょっとしたドライブ気分だな、デートだデート」
陸はなんだか嬉しそうにアタシに笑いかける、車はインターを降りて緩やかにカーブしている。
東京都のはじっこあたりにある病院は環境のよさと施設設備の充実でそれなりに有名らしい。
小高い丘のようになっている坂道を上がると広々としたエントランスが見えてきた。
陸のお父さんはこの病院に入るのを最初かなり嫌がったらしい、まず家から1時間半くらいかかる距離だし、何よりこの緑に囲まれた環境が老人ホームを想像させて気分悪くなったらしい。
陸に聞いたら実際老人ホーム的な看護もやってるらしくて、お父さんの気持ちもわからなくは無いかも。
実際アタシが来たのは初めてだけど、広くて空気も綺麗だし気分はいい、でもここにずっと住んでろって言われたらどうなんだろう?
高速降りてからも国道沿いのコンビニとか、でかい飯屋とかが何件かあったくらいで全然遊べそうな所無いし、アタシは多分すぐあきちゃうんだろうなぁ。
受付で面会の手続きをして(もちろんアタシはそんなの必要ない)エレベーターで4階へ。
確かに入院患者も面会の人も年配が多いかもしれない、お父さんはこういう人達と一緒にされたくないのかなぁ。
「よう、どう調子は?」
部屋は4階の奥の個室だった、花屋らしく綺麗な切花が入れられてる、陸が活けたってのが良くわかる、スッとした活けこみ方、ボリュームを出すために入れられた紫陽花が綺麗な青色だ。
「痛みはひいてきてるよ、ただ歩くのはやっぱりしんどい」
陸のお父さんは無愛想だ、顔も陸にはあまり似ていない、陸はどちらかというとエキゾチックな顔立ちだけど、お父さんは日本人顔で背も大きくないし、そのぶんガッチリとしている。
お母さんの血が色濃いんだろうって思う、陸のお母さんは陸にそっくりだ。
「店、どうだ?」
「あぁ、これ収支報告」
陸が鞄から取り出した書類の束を受け取ってお父さんはメガネをかける、一時期はロレツが回らなくて喋るのも大変そうだったけど、今では喋るのに問題はなさそうだ。
「…生花部門、先月より落ち込んでるな」
「そりゃそうだ、5月は母の日、6月は父の日ってイベントあったからな、それに比べると少しは落ちるよ、その分カフェ部門の売り上げが少し上がったからさ」
「陸、うちは花屋なんだよ、それを忘れた商売するなってあんだけ言っただろうが」
お父さんが店をカフェ併設にしたのを気に入ってないのはアタシも知ってる、お父さんは楢崎生花店は楢崎生花店であって欲しかったんだと思う、でも売り上げ自体が下がってて、自分も病気しちゃってどうにもならなかったんじゃないかなぁ?
「それは解ってるよ、今企業のエントランスとかの活けこみも営業かけてるし」
「花屋の二代目としてはお前はまだまだ未熟なんだから、池澤さんによく話し聞いてやるんだぞ、俺が帰るまでは池澤さんのいう事聞けよ」
陸が露骨に嫌な顔をした。
池澤さんは陸がまだ小さい頃からお店で働いてるおっさんだ、物凄く人が良くて愛想がいい。陸も小さい頃から遊んでもらったり色々世話になってるらしいけど、如何せん今のオシャレな店の感覚とマッチしてないのは否めない。
陸が社長になっても、やっぱりお父さんは経営の実権を握ってるのがよくわかる、陸がそれを面白く思ってないのも。
陸がほんの一瞬だけアタシを見た、アタシは部屋の隅っこで二人のやり取りを見てただけなんだけど、チラッと陸は私を見て、それからお父さんに向き直った。
「親父、池澤さんの事なんだけど」
「何だ?」
「俺、実際の経営者として、池澤さんには退職してもらいたいと思ってるんだ」
陸はきつく両手を握ってた。
To be continued…
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