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加東 岳史。 最近、涙もろくなった乙女座O型。 素敵なLove Storyを皆様にお届けします。 何をやっている人かと言うと、(1)役者 (2)脚本家 (3)演出家 (4)劇団代表 (5)小説家 (6)DJ (7)秘密 と、イロイロな顔を持ってます。
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第10話 マイの事(3)

「…なんて言った?良く聞こえなかったんだが」
陸の親父さんの目つきが変わった、陸と親父さんの視線がぶつかり合う。
「池澤さんの事だよ、俺は経営者として池澤さんには半年以内に退職してもらおうと思ってる」
陸は別に気が強い男じゃない、と言うか気が小さい、強がりのビビリなのだ。
その陸が一番苦手な親父さんと真正面からにらみ合ってる。
「おい陸、お前言葉の意味解って言ってるのか?」
「解ってるよ、何度も言わせないでくれよ、俺は経営者として」
「お前にそんな権限ないだろうが!」
親父さんの怒号が病室に響く、アタシも思わずビクッとする。
「何言ってるんだよ親父、今は登記上も父さんじゃなくて俺が経営者なんだよ?弁護士の小松さんも病院に来てくれて」
「そういう事言ってるんじゃない!楢崎生花店は俺が立ち上げたんだよ!俺がお前や母さんを花一輪一輪売って養ってきたんだよ!」
「そんなの関係ないだろ!?今誰が店を支えてるんだよ!俺だろ?いい加減解ってくれよ」
「まぁいい、今店を支えてるのは陸、お前だってのはいいよ、でもそれと池澤さんを退職させるってのはつながらねえ話だろ!」

きっと親父さんは寂しいんだろうって思う、自分で作り上げたお店があって、家族があって、それを誇りに思ったり幸せを感じていたんだろうなって。
アタシには家族もお店も何にもないから、無いからこそ逆にわかることがたくさんある気がする。
親父さんは別に病気になりたかったわけでも、お店を譲りたかったわけでもなくて、そりゃあ勿論いつかは陸にお店を継がせるつもりだったのかもしれないけど、臨んでいない形で、臨んでいないタイミングでこうなったから歯がゆいんだ。
この病院は凄く綺麗で、自然がたっぷりあって、看護師さんも美人だったり優しかったりして、何の不自由も無いんだろうけど、だから親父さんはひとりぼっちなんだ。
自分がこの暖かい環境にいる間に、自分の帰る場所がなくなりそうで怖いんだ。
池澤さんは陸が生まれる前から親父さんと一緒に店をやってきた人だから、それも無くなったら次にいらないって言われるのは自分だって思ってる、アタシはそう思う。

「…池澤さんには俺も凄く世話になった、お店の事も助けてもらった、仕事も教えてもらった、でも今のquatre saisonsには池澤さんの居場所は無いんだ、生花部門は俺とお袋で十分回る、カフェ部門では池澤さんは使えないし」
「うちの店はそんな変な名前じゃねえ!楢崎生花店だ!」
「quatre saisonsだよ!名義変更もしてるんだ!わかってくれよ親父!親父が倒れて店は本当にやばかった!親父の治療費だって払えるかどうかだった!どうにか立て直そうとしてるけど、経営はやばいんだ!切り詰める所は切り詰めないといけない!池澤さんの給料分でバイトが三人は雇えるんだぞ!」
「あの人と俺はお前が生まれる前から!俺と美都子が結婚する前からの縁だ!俺も沢山助けられた、だからあの人の事を助けないと」
「もう十分助けただろ!楢崎生花店に池澤さんが入社して何年だよ、28年だぞ!俺だって放り出すわけじゃない、新しい就職先も俺が全力で探すし、それまでは勿論店にいてもらうつもりだし」
「そういう事を言ってるんじゃねえよ、お前の育て方間違えたよ、人情もわからねえとは」

陸がキレた、アタシにはわかった、育て方間違えた、その一言で陸が傷ついた。
「じゃあナンだよ!親父は池澤さんにいつまでもいつまでもいてもらうのか?死ぬまで親父が面倒みるつもりだったのか!?もう親父は池澤さんの面倒なんて見れないだろうが!池澤さんの、親父の、お袋の、バイトたちの面倒を見なきゃならなくて、今みてるのは俺だよ!俺が全部やってんだよ!もう親父は池澤さんの面倒なんて見れないんだよ!わかるだろ!無理なものは無理だろうがよ!どうすんだよ!池澤さんも今の店だったら居場所ねえんだよ!居心地悪い思いさせて、面倒見てやってんだ、そりゃ親父の自己満足でしかねえよ!親父が池澤さんの、俺の気持ちなんて一つもわかってねえんだよ!!」

陸が叫ぶだけ叫んだ時に親父さんが陸に飛びかかろうとした、でも親父さんは立てなかった、まだ左足が自由に動かないんだ、ベッドからバランスを崩して倒れそうになって、親父さんは危ない所で留まった、陸は身動き一つしなかった、ただ息を荒くして、少し悲しそうに親父さんを見つめてた。
「何やってるんですか楢崎さん!凄い怒鳴り声で喧嘩してるって思ったら!」
戸をあけて看護師さんが飛び込んできた、それでも陸は動かない。
「陸、お前はもう息子でもなんでもねえ、病院にも二度と来るな」
「…親父がそうしたいならもう来ないよ、でも店は俺が経営してる、ここの入院費も俺が払ってる、それ忘れんなよ、親父」
「あの…ちょっと、楢崎さん!」
看護師さんの言葉を無視して陸は病室を出ていく、アタシは見えないってわかってながらも親父さんに一礼した、そうしたい気持ちだったんだ。

陸の後を追う。
「おい、いいのかよあんなこと言ってよ」
「いいんだ」
「お前の言ってることは正論だけどよ、親父さんの」
「いいんだ」
そういって陸はアタシの手を強く握った、振り返らずに。


To be continued…  

第6話 マイの事(2)

陸の運転する軽の助手席に乗って、陸のお父さんの病院に向かう。
お父さんが病気になったのは陸がまだ大学を卒業する前だったらしい、それまでは元気だったのに急に倒れたそうだ。
脳内出血ってやつで、一命は取り止めたけど半身マヒが残っちゃって、未だに杖無しじゃ歩けない。
リハビリで病院からはもう退院してるんだけど、先月家の階段で足を滑らせて腰の骨にひびが入っちゃって、今はまた入院している。
陸は店の経営をしながらなるべく週一回は病院に顔を出してる、経営は引き継いではいるけど、まだまだ取引先の一部はお父さんの人脈があるのも確かだ。

「なぁ、なんでアタシを連れて行くのさ?いままで一度もそんな事なかったじゃんか」
「うーん、なんつーかな、お前がいたら安心するって感じか?」
「馬鹿いってんじゃねえよ、アタシ何にもしねえしできねえぞ?」
「わかってるよ、いいんだよ、マイが居てくれれば」

なんかすっきりしない気分だ、陸が会話のお茶を濁す事なんてしょっちゅうだけど、意味の無い行動とかをすることって殆ど無い。

車はもう1時間ちょっと走ってる、高速道路に乗ってもう少し行ったインターで降りるらしい。
カーステレオからは陸のお気に入りの曲が流れている、まだそんなに売れていないインディーズバンドのアルバム、陸がお気に入りって事はアタシもお気に入りって事だ。
「ちょっとしたドライブ気分だな、デートだデート」
陸はなんだか嬉しそうにアタシに笑いかける、車はインターを降りて緩やかにカーブしている。

東京都のはじっこあたりにある病院は環境のよさと施設設備の充実でそれなりに有名らしい。
小高い丘のようになっている坂道を上がると広々としたエントランスが見えてきた。
陸のお父さんはこの病院に入るのを最初かなり嫌がったらしい、まず家から1時間半くらいかかる距離だし、何よりこの緑に囲まれた環境が老人ホームを想像させて気分悪くなったらしい。

陸に聞いたら実際老人ホーム的な看護もやってるらしくて、お父さんの気持ちもわからなくは無いかも。
実際アタシが来たのは初めてだけど、広くて空気も綺麗だし気分はいい、でもここにずっと住んでろって言われたらどうなんだろう?
高速降りてからも国道沿いのコンビニとか、でかい飯屋とかが何件かあったくらいで全然遊べそうな所無いし、アタシは多分すぐあきちゃうんだろうなぁ。

受付で面会の手続きをして(もちろんアタシはそんなの必要ない)エレベーターで4階へ。
確かに入院患者も面会の人も年配が多いかもしれない、お父さんはこういう人達と一緒にされたくないのかなぁ。

「よう、どう調子は?」
部屋は4階の奥の個室だった、花屋らしく綺麗な切花が入れられてる、陸が活けたってのが良くわかる、スッとした活けこみ方、ボリュームを出すために入れられた紫陽花が綺麗な青色だ。
「痛みはひいてきてるよ、ただ歩くのはやっぱりしんどい」
陸のお父さんは無愛想だ、顔も陸にはあまり似ていない、陸はどちらかというとエキゾチックな顔立ちだけど、お父さんは日本人顔で背も大きくないし、そのぶんガッチリとしている。
お母さんの血が色濃いんだろうって思う、陸のお母さんは陸にそっくりだ。

「店、どうだ?」
「あぁ、これ収支報告」
陸が鞄から取り出した書類の束を受け取ってお父さんはメガネをかける、一時期はロレツが回らなくて喋るのも大変そうだったけど、今では喋るのに問題はなさそうだ。
「…生花部門、先月より落ち込んでるな」
「そりゃそうだ、5月は母の日、6月は父の日ってイベントあったからな、それに比べると少しは落ちるよ、その分カフェ部門の売り上げが少し上がったからさ」
「陸、うちは花屋なんだよ、それを忘れた商売するなってあんだけ言っただろうが」

お父さんが店をカフェ併設にしたのを気に入ってないのはアタシも知ってる、お父さんは楢崎生花店は楢崎生花店であって欲しかったんだと思う、でも売り上げ自体が下がってて、自分も病気しちゃってどうにもならなかったんじゃないかなぁ?

「それは解ってるよ、今企業のエントランスとかの活けこみも営業かけてるし」
「花屋の二代目としてはお前はまだまだ未熟なんだから、池澤さんによく話し聞いてやるんだぞ、俺が帰るまでは池澤さんのいう事聞けよ」
陸が露骨に嫌な顔をした。
池澤さんは陸がまだ小さい頃からお店で働いてるおっさんだ、物凄く人が良くて愛想がいい。陸も小さい頃から遊んでもらったり色々世話になってるらしいけど、如何せん今のオシャレな店の感覚とマッチしてないのは否めない。
陸が社長になっても、やっぱりお父さんは経営の実権を握ってるのがよくわかる、陸がそれを面白く思ってないのも。
陸がほんの一瞬だけアタシを見た、アタシは部屋の隅っこで二人のやり取りを見てただけなんだけど、チラッと陸は私を見て、それからお父さんに向き直った。

「親父、池澤さんの事なんだけど」
「何だ?」
「俺、実際の経営者として、池澤さんには退職してもらいたいと思ってるんだ」

陸はきつく両手を握ってた。


To be continued…   

第2話 マイの事(1)

アタシの彼氏、楢崎陸は人から見たらマジメな好青年、らしい。

大学を卒業して某一流広告代理店に内定が取れたけど、お父さんが脳性マヒで倒れたので、内定を蹴って実家の花屋を継いで二代目になり、二代目になったのをキッカケに店の名前を「楢崎生花店」から「quatre saisons」に変更、オシャレでお茶も飲める店に変えて売り上げを伸ばす…
って言うけど、アタシから見たら別に陸はたいした事無い男。
人の前ではかっこいい事言ってるけど、アタシの前では変に甘えてくるし。
それがうっとおしいからアタシは邪険に扱うんだけど、アタシにキツイ事言われたり、バカにされると陸はニヤニヤ喜んだ顔する。
「キモイからニヤニヤすんな」って言うと「別にニヤニヤなんてしてないよ」なんて言い出す。
確かに陸は人前ではハッキリ物を言うし、何と言うか、有無を言わさず事を進める。
大体そうやって陸が進めた物事ってうまい方向に進むんだけど、それはアイツが辻褄合わせが上手なだけなのだ。
陸をよく見ていればわかると思うんだけど、陸が決めた物事が予想通りに進まなくなりそうになると、あいつは着地点をばれないようにずらす。

ここだけの話、あいつは家を継ぐときに最初は花屋を廃業して、カフェにしようとしてた。
でも親父さんやお袋さんの反対、それまで培ってきた花屋のツテなんかを活かすことを考えて「美味しいお茶も飲めるオシャレなお花屋さん」に見事に方向転換した。
結果としてそれは成功して、最近では女性誌の取材が来たりして売り上げは上向きだ。
でも本来やりたかった事とは違う形になったって事実は陸の中にたしかにあって、表向きはしてやったり、みたいな顔してるけど内心穏やかじゃないし、出来上がったものを
「これが本来俺のやりたかった事だ」
って自分に言い聞かせて無理やり納得させてる。
そのしわ寄せがアタシに来る、キレるわけでもなく、甘えてくるのだ。

アタシはいっつも陸と一緒にいるし、アイツの考えてる事だってほとんどわかる。
陸以外の人間がアタシを見ることができないのを解ってて、アイツは無理してる自分をアタシに見せ付ける。
それで陸は「凄く頑張ってる自分」を「自分の事をわかってくれてるマイ」にほめてもらいたいのだ。
でもアタシは陸をほめる事なんてない。
アタシは陸が、ほめられるより「バッカじゃねえの?」って言われるほうが嬉しいのを知ってるから。
生まれたときからそういう風な自分だったから。
それは陸がアタシを生み出した時にそういう風に願ったからなんだろうけど、正直アタシは自分が自分でアホらしくなるときがある。

確かにアタシは陸の妄想の一部だけど、ここの所のアタシは妄想である事が面白く無くなってきてる。
妄想は妄想らしくご主人様の望む自分でいればいいんだろうけど、どうやらアタシの生み出されたプロセスはもうちっと複雑らしい。

陸がアタシに望んだのは「素直になれなくて、自分のいう事を聞かない彼女」みたいな事らしい。
ここ1年ちょっと陸と「妄想の彼女とその彼氏」、という共同生活を送ってきて、どうやらアタシは「自分のいう事を聞かないツンデレ彼女」という自分の設定にも反発したくなってきた。

だってアタシは一応彼女だよ?いつまでたっても彼氏に反発ばっかりして、文句しか言えない、仕事で疲れているアイツに「お疲れ様」の一言も言えないのって、それは彼女としてどうなの?
なんて事を日々堂々巡りで考えてると、妄想としての自分のアイデンティティが崩壊しそうで怖くなる。
あれ?妄想なのにアイデンティティを求めるあたりがおかしいのか?
なんかよくわからなくなってきた。

今日も今日とて陸のベット上でクッション抱きながらそんな事考えてたら、陸が急に声をかけてきた。
「なぁマイ、明日俺昼過ぎに一回店抜けるから、付き合ってくれないか?」
「んだよ、そりゃ来いって言われりゃどこだっていくけど、どこ?」
「親父の所」
「…病院?」
陸は今まで一度もアタシを親父さんの病院に連れて行こうと(正しくは呼び出さない、だ)
しなかった、それがどうしたんだろう?
「別にいいけど、どうしたんだよ?」
「んー、特に意味は無いけど」
「変なの、わかったよ」

特に意味が無いわけない、頭をガリガリかいてるのは陸が困ってる時の癖なんだから。


To be continued…